本日快晴ところにより津波発生

 

 

 オウビスカ城は今日も平和だ。

 今日もまた主人の目の前でゲシュタルは電池切れを起こしていた

「あ……また?」

 食事中にホタポタを頬張ったままカタリと床にくず折れたゲシュタルの姿を見て、女王である少女ディネ

スはそれを当たり前のように受け止めていた。

「イード!イードはおらぬのか?」

 女王の威厳のあるその声で、傍付きの騎士の一人がかの宮廷魔術師を呼びに部屋を出こうとしたとき

に、それは起こった。

 がばり、とバネのように勢いよく体を起こしたゲシュタルは

我が子よおおおおおお!!!!!!!

 とひとしきり叫んだかと思うと、とりあえず部屋の扉をぶち破って外に出て行ってしまった。その後壊れ

た扉の向こう側からは廊下に詰めていた兵士たちの阿鼻叫喚が聞こえてきた。

「……」

 怖い感じもするが、ゲシュタルはイードが抱えている最高の戦士であるという話。その言葉でディネス

はゲシュタルのことをイードの次には頼りになる存在として護衛として連れていた。その頼りとなる

シュタルが倒れるのもまた日常茶飯事といえば茶飯事なのだが

 その、はずなんだが。

「いーどぉ、早く来てぇ……」

 女王は涙目を浮かべて、切に懇願した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し後。水棲族の拠点にて、漂着物を発見した少年が一人。

「ヨストー」

「どうしたピネ。少し会わぬうちにお腹は壊していないか、風邪は引いていないか?」

「まださっき一緒におやつ食べてから1時間も経ってないじゃん。それはそーとしてこれ拾ったんだ」

「拾い食いはお腹を壊す。今すぐやめるんだピネ!」

「食べ物じゃないって、ほら」

 ずるり、という効果音と共に引きずられたのはボロ雑巾で腐った牛乳を拭いてそのまま後はゴミ箱行き

☆と思えるほどに惨めな姿で倒れ伏していた包帯だらけの男――ぶっちゃけゲシュタルその人だった。

「そ、それは、どうしたのだ」

「さっき拾ったんだー」

 愛するピネが拾ってきたモノ。まさか「捨ててきなさい」などとはヨストには天地天命に誓って言えるは

ずもない。そのおかげでピネが拾ってきた小動物の数は……ここでは言うまい。

「ね、飼っていい?

 キタ―――――!

「そ、それは……危ないものをこの拠点に入れるのは、だ、な」

「ね、ヨストー」

 斜め下58度から俯き加減に見上げる87番目のピネ必殺技『うるうるぼんばー』である。

「う、う……m」

我が子よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 ヨストの葛藤は下に伏していたモノの妙な叫び声によって何とか遮られた。これがよかったのかどうか

は定かではない。

「漆黒の剣を携えし我が子はこの世に未だ生きていたというのだな、おお我が子よ!何と言う幸い俺は

まだまだ長生きせねばならんのだなあははははははははははは素晴らしいぞこの愛すべき世界ご都合

主義め!」

「は?」

「何だ?」

 突然うめき始めたボロ雑巾、それを実に可哀想な目で見つめるピネと、ピネを背にやりつつ訝しげに観

察するヨスト。

「あの漆黒の剣こそ我が血脈の証にしてすばらしい才能すらも引き継いでいることを示しているのだぞあ

あ我が息子よあの剣を使いこなしてみせるとは父は今感動しているぞおおおお」

「漆黒の剣って、おねーさんが持ってるやつかな」

 ぽん、とピネが手を打った。

「ああ、リベアが持っている剣のことか。確かにそうだな……」

「でもおねーさんは女の子で、この人息子って言ってるね。間違えてるのかな?」

そこの童、我が子を知っているのか!?

「え、知ってるというかでもおねーさんだし」

ピネに触るな下衆が!

 ピネに詰め寄るゲシュタルに、ヨストは容赦なく必殺ハイドロバングをお見舞いした。

 しかし、水が引いた後にゲシュタルはボロ雑巾が更にボロくなった感じになったがそこに何事も無かっ

たかのように立っていた。

「き、貴様……できる」

「我が子への愛を前にそのような愛の無い冷たい攻撃など俺には効かぬわ!」

「おおすごい。ヨストのあれをくらってまだ動けるなんてー」

「おお我が子よそなたは今どこに……むっ!?」

 

 

 

 そこに歩いていたのは、漆黒の剣を持った変な仮面を被った40歳のおっさん

 

 

 

我が子よぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!

「どわあああああ一体何事であるかあああああ!?」

 

 突然妙なボロ雑巾のようなおっさんに抱きつかれ、足腰の悪いヨードはバランスを崩して転倒。そのま

くんずほぐrゲシュタルの下敷きになってしまった。

 

 

 

 ちなみに話はほんの数分前に遡る。

「ヨード、ちょっとこれ持ってて」

 そう言ってリベアからヨードに渡されたのは件の漆黒の剣

「大事なものではないのか?それをまた何故我に……」

「今からお風呂に入ってくるから、ちょっと持っててほしいだけ」

「……う、うむ」

「覗かないでね。覗かれるのはギグだけで充分だから」

「と、当然である!」

 

 

 

「我が子、ょっ」

 あまつさえ男泣き、享年40歳、現年齢3桁(と思われる)ゲシュタル、滝のように涙を流す様ははっきり

言って汚らしい

「な、な、な、な、な、何が起こっているのであるかっ」

「知らなーい」

 混乱するヨードをピネは笑顔で切り捨てる。

「何かね、『わがこ』を探してるんだって」

「『我が子』!?我がそうだというのであるかっ!?」

「そうだ我が子よ!よくぞ我が前に再び元気な姿を見せてくれたものだ!おとーさんは嬉しいぞおおおお

お」

「待つのだ、どう考えても人違いであろう!大体我は竜人であるぞ?」

 割と正論を返されまじまじとヨードを見つめなおしていたゲシュタルであったが、数瞬の間の後に再び笑

顔に戻り

「竜人になったのかおめでとう我が子よ流石であるなわはははははは」

 もうこの雑巾駄目だ、とヨードが悟った瞬間であった。

 呆けたヨードの方には目を一切向けず、ピネは40のおじさんに抱きついている享年40のおじさんに興

味津々声をかける。

「ねえねえおじさん。おじさんって誰?」

「誰とは愚問だな童よ。我こそは――」

 

 ドンガラピッシャンゴロガロゴログロゲロギョロッペ

 

 突如耳をつんざく雷音が辺りに響き渡った。

 ヨードを愛おしそうにぎゅっと抱きしめたまま立ち上がってゲシュタルが高々と胸を張ろうとしたその時だ

った。

「メディアン様――もといゲシュタルから離れるのだそこの愚民共!」

「いや、離してくれるのであるならば早う離してくれい……」

「また変な人が来たなあ」

 仁王立ちで偉そうにふんぞり返っているその人は邪眼の術師イード。

 ヨードの掠れ掠れの訴えとピネの正直な呟きは彼には聞こえなかったようで、しかし目ざとくゲシュタル

に抱きかかえられているヨードのことを発見した。

「ヨード、貴様!一族の恥さらしであっただけならまだしもこのお方に何と言う無礼な。やはりお前は一族

の中で抹殺しておくべきであったか!」

「イードよ」

 杖を掲げ今にもヨードをローストヨードにしてしまおうとしたイードに、ゲシュタルは荘厳かつ迫力のある

低い声で呼び止めた。

「……はっ」

「貴様我が子に何をするのだ愚か者めええええええええええええ!!!!!

 ゲシュタル必殺スクリュードライブ右斜め下アッパーがイードの左頬に炸裂した。何かが潰れたよう

な音が拳がヒットした時と彼が地面に激突したときの2回聞こえてきた。

「め、めでぃあん様……いった、い、どういう、ことで、ございます、か……」

 鼻と口元から血を、腹からは内臓を噴出しながらイードはゲシュタルに追いすがる。

「ようやく出会えた我が子を排しようなど何と言う愚であるか!」

「は、『これ』がですkブゲドシャグケリョケロケロッ!!!???

 今度は右頬にゲシュタル必殺スクリュードライブ左斜め下アッパー。

「我が子を『これ』呼ばわりとはよほど命がいらぬとみえる」

「は、はっ……申し訳ございません」

 ゲシュタルの眼前に跪き臣下の礼をとるイードに、ヨードは小声で話しかけた。

「イードよ……これは一体何事であるか……」

「う、うむ……緋涙晶の供給がうまくいかなかったらしくまた倒れてしまったのだが、どうやらそのときに不

具合が起こったのかも知れん……」

「は?」

「いやこちらの話だ」

 壊れた挙句に海を越え遠泳の末にオウビスカ城から水棲族の拠点まで泳いできたというのに燃

料切れと言えるのかどうか疑問だが。大陸半周の旅である。

「とりあえずうまく隙を見てあれ(緋涙晶)の供給が出来れば元に戻ると思うのだが……」

 そうして悩むイードの思考を遮る出来事が立て続けに起こる。今度は拠点の奥の方からだった。

 何と巨大な津波発生

「さあ皆、いくよっ!!!」

『はい、ヨスト!!!』

 その波の頂上には拠点中の全員ではなかろうかというほどの水棲族のお姉さんたちがヨストと共に怒

りの表情でゲシュタルを見つめている。

 ピネが感心したように呟いた。

「あ、ヨストいないと思ったらみんなを呼びに言ってたんだね」

「我々にピネへの愛情がないだなどと失礼なことをぬかす貴様には、我々の真の愛と言うものを見せて

やるっ!」

ピネを愛する気持ちなら我々は誰にも負けないっ」

「私たちがピネを愛していないだなどと言うやつにはお仕置きだ!」

 ピネのことなどゲシュタルは口にしていないのだが、そんなことはお構い無しである。

 団結力の強い水棲族の力、今ここに発揮される。

「さあ、皆の者よ!我らの力を見せてやろうぞ。我らが宝、ピネのためにのう!」

『はい、アレキシミア様!』

 一番後ろには女王アレキシミアが控えてさえいる。親馬鹿はここの拠点の者全員だったらしい。

「ふっ、我が子を愛する気持ちならば俺も負けはせぬぞ……!ゆくぞイードよ、我が力を見せてくれる

わっ!!」

「………………はっ、仰せの……ままに」

 小脇にヨードを抱えながら嬉々として叫ぶゲシュタルに、イードはただ黙って従うしか道は残されていな

かった。

 

 

 

『ピネの可愛らしさを教えてくれる!!!』

「我が子の素晴らしさを教えてくれる!!!」

 

 

 

『真の親の愛と言うものを貴様に教えてくれるわああああああああ!!!!!』

 

 

 

 今、世界を揺るがす親馬鹿子ども自慢合戦が始まる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おねーさん。あっちには行かない方がいいよ?」

「何か騒がしいね。変な予感がしたからヨードに剣預けといたんだけど、正解かな」

「相棒お前確信犯かよ……」

「ギグうるさい。喰うよ?

「ゴメンナサイモウナニモイイマセン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、我はどうなるのだ?おい、放置するでない!目を背けるでない!無視して終わらせるでないい

いいい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20070513

 

⇒最初リク内容見たとき正直挑戦状叩きつけられたのかと思った。やってやろうじゃねえか、でも無理。とか言いながら書いてました。いや、楽しかったですよ(笑