世界を憎みはしないけれど、運命を憎むことはある

 

 

「私、女が羨ましいと思うことがある」

「何故?」

「こういうことをしていても奇異の目で見られることがない」

 そうやって話をしながらも少年の手元はすいすいと動いて布に虹色の花弁の一片を縫い上げていく。

「裁縫や料理が好きだと言えば何と頼りないものかと眉をひそめられかねん」

 手の動きを止めて、少年は天幕の脇の机の上を指した。そこには小皿に盛られたクッキーとティーセッ

ト。

「ヴィー、良かったら食べてくれるか。横の紅茶も飲んで構わない。カップは用意させておいた」

「いいのかい?」

「もちろん。他の者に食べさせるわけにもいくまい」

 微笑みながらももの悲しげな少年の目には気付かない振りをして、ヴィジランスはテーブルの上に手

を伸ばす。

「夜中にこっそり厨房に出て行ったんだ。久しぶりに作りたくてな」

「美味しいよ」

「正直に言え」

「本当に美味しい。軽い食感のバランスがいい」

「そう、か?」

 少年は満足そうに微笑んだ。

「こうやって振舞うことは少ないからな、私の腕が如何ほどかなどは分からん。だが、素直に嬉しく思う

ぞ」

「少ないのかい?」

「料理をすること自体、そうそう明かすことでもない。そうだろう?」

 顔を曇らせ、少年は再び針仕事に戻る。

「男児たるものそのような情けないことでどうするのだ、と。何よりも私は覇王の後継者たる者としてある

者だ」

「だから女性が羨ましいと?」

「まあ、そんなところだ。女ならばそのようなことにかかずらうこともなかったのだろう、とな」

 苦笑しながらひたすらに手を動かす。

「『王子殿下がそのようなことをなさるな』と何度言われたことか。『覇王の後継者たる者がそのようでは

なりませぬ』と」

「……それは」

 ヴィジランスは少し口ごもった後、やはり口を開いた。

「あなたは、『王子』であることを……嫌だと、思っているのかい?」

「まさか」

 少年の――王子の手が、ぴたりと止まった。

「ちょっと今からややこしいところに入る。話しかけないでくれ」

「ああ……わかったよ」

 そうしてまた少年は手元の布地と向き合った。黙々と手を動かしていく。

 ヴィジランスが2杯目の紅茶を飲み干そうとした頃、ようやく少年が口を開いた。

「ヴィー、私は……父上の息子であること、それは誇らしいことだと思っている」

 しかし手元はひたすらに動き続けていく。先程よりもより速く、そして若干乱雑に。

「だが、私が女だったら――『王女』だったら如何ほどよかったか、と考えたことは多い」

 覇王の男児として生まれてきた子供は、生まれながらにしてその運命を定められた存在。

 世界を背負うことを運命付けられた子供。

「まあ、今となっては大したことではないのかも知れん」

 そして今はそれに加え、死を既に運命付けられている子供だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出した。子供が死んだのは5歳だってメディアン様が言ってたや。
この頃の子供なら性の区別が曖昧だし、そんなふうに考えることもあるんじゃないかとか。
5歳がこんなしっかりしてるのかとかその辺は無視の方向で(笑

そういう理由で、前世は男なのに女主人公と言う選択肢が存在するんじゃないのかとかいう話(笑
と、言うわけでここの主人公は料理裁縫が得意です(何
2006/03/22