五感+αの全てが感情を狂わせる

 

 

 まずは、殺気。

 肌にびりびりと来るほどのものだったが、所詮はギグにとってゴミ虫以下の者たちの殺気だ。だから、

気にも留めなかった。第一その時ギグはまだまどろみの中にいて、瑣末なことに気を向けることなど考

えもしなかった。

 

 次は、鼓膜。

 耳元でやけにきんきんと耳障りな声がする。複数の雑音が無駄に騒がしい。――ああ、煩い。意識が

ようやく覚醒に近づきつつあった。

 

 そして。体中に、魂に響き渡る声が届いた。

「ギグがいないのにどうしよう……」

「ふぁー……呼んだかー……?」

 未だ覚めきらぬ中、ギグは己を呼ぶ声に答えた。

 彼にとってそれはこの短期間の旅の中で当たり前のことになりつつあったし、その行為に疑問を持とう

とも思わなかった。

 だがその声を聴いた瞬間、己の体の主はぴくりと体を震わせた。

 次に震える声でもう一度名前を呼ぶ。

「ギグ……」

 周囲の様子を限られた視界を使って確かめながら、ああ、またどうでもいいような面倒なことになって

いるのか、と無い鼻を鳴らしながら声に答えてやる。

 ひとしきりからかってやっても、リベアはそれに答えるでもなく、また周囲の敵を捉えようとするでもな

く、ただ自身の手を凝視している。

「ギグ」

 ゆっくりと、彼女は自身の腕を回して自分の体を抱きしめた。両の腕で、ぐっと肩を掴んで放さない。

 口元の筋肉は上がりっぱなしで、端がふるふると震えながらもずっと嬉しそうに笑っていることが嫌で

も分かった。

 下がり気味の目には少しだけ涙がにじんで、前かがみの姿勢になっているため床しか見えない視界

が更に悪くなっている。

「ギグ……ギグ、ギグ」

 何度も響く震え気味の声。

 心臓の拍数は徐々に上がっている。どくんどくんと強く響く音が彼の魂をも揺さぶる。

 肩を掴む手の力は更に強くなる。きつく、ついには爪が食い込むほどに強く。

「ギグ、ギグ……ギグ!」

 

 ただ返事をしてやっただけなのに、何故ここまで過剰な反応を体がしているのか?

 一瞬の戸惑いを振り払うよう、己の肉体に向かってギグは煩いと怒鳴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。まんまTVの前の自分のことです(苦笑
リベアは純粋に喜んでいるだけで、ギグは戸惑っているだけですよ(何
20070323