《光明》

 

 

 

 女王騎士の修練所でありながら、女王騎士とその見習い以外の姿を見ることは結構多い。

 とはいってもその正体は王子殿下。父君様の方針かそれとも本人の意思なのかは知らないが、彼は勉学と両立

して武芸にも力を注いでいる。この国の高貴な身分の者は大抵武術を野蛮な行為としてみなしている為、それを王

子自らがやるということは見習いとして太陽宮に住まうようになったカイルにとって衝撃的なことの一つであった。

 まあ父親が父親(決して悪い意味ではない)なのですぐに納得してしまったが。

 

 

 

 

 

 

 剣を持って、父親の姿を見ながら一生懸命それを真似ようと奮闘する姿は微笑ましいものであった。

 しかし彼は誰かに教えを請うようなことはほとんどなく、できるだけ一人で何でもしようと心がけている節があった。

何かを学ぶにしろ指導を受けるのではなく、見て盗む。

 騎士たちの邪魔にならないようにと王子が修練所の端に出来るだけ行こうとするのも、また騎士たちが王子の姿

を認めると彼に遠慮して場所を譲り合うのも見慣れた風景。王子が遠慮しているのを騎士長が見かねて彼らに自然

にするよう言い渡すのも決して珍しいことではなかった。

 カイルが王子に声をかけると、大抵返ってくる返事は決まっていた。

「貴方たちの訓練の邪魔はしたくないから」

 だから自分のことは無視してくれ、出来ないなら自分から出て行く。

 あっさりといいのけてしまう。自分が相手をしようかと訪ねてもその返事。カイルとしては少し寂しい。

 それでも王子の剣の腕前は未熟でありながらも決してそこらの兵士に劣るものではなく、あと必要なのは対人戦

の経験を積む事とその心構えくらいなのではないかと思っていたのだが。

 王子がその獲物を変えたと聞いたのは、見習いとしての生活にも慣れ始めた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 いつもと同じように修練所の隅にいる王子の姿を見つけたのだが、その日はどうも様子が違っていた。

「王子、それどうしたんですー?」

 カイルが横から声を掛けると王子は首だけを回して彼のほうを向いた。

 彼の手にあるのは常に訓練していた剣ではなく、何やら鎖でつながれている何本かの赤い棒。

「もしかしてそれですか?王子が変えた獲物って」

「連結式三節棍」

「れんけつしきさんせつこんー?」

 聞きなれない言葉に首をかしげていると、王子は二つに分かれていたそれを中央で繋いで三節棍の状態にし、そ

して更にそれをつなげて一本の棒にした。

「これで三節棍。こうして、棍にできる」

「へー」

「だから、連結式の三節棍」

「成る程ー」

 もたつきながらもそれを操りながら説明をしようとする王子の姿はなんとも微笑ましく、わざわざ説明をしてくださっ

たというのにその内容のほうはあまり頭に入ってはいなかった。とりあえず扱いづらそうな武器であるという印象だ。

 うんうんと首を振っているカイルを横目に、王子は棍を分解させていく。二つに割って腰に新しくつけたホルスター

にそれらを仕舞い込んだ。

「あれ、王子もうお終いなんですか?俺が邪魔だったら消えますけど……」

「違う。練習」

 そう言うと彼はすばやく後ろに手を回し、連結式三節棍を取り出した。二つに分かれているそれを中央の連結部分

でつなぎ、そして更にそれを真っ直ぐな棍にしようとする。が、中央部分を持ちながら右、左とつないでいくその動作

はとても速いとはいえなかった。武器を構えるのにそんな時間がかかっていては、構える前にやられてしまうだろ

う。

「……むう」

「もしかして練習ってそれの構え方ですか?」

 カイルの問いに頷きながら王子はそれを再び二つに割って腰に戻し、同じように抜いてみる。しかしそのスピード

は速くなるどころか、手元が狂って組むのに余計時間がかかってしまった。

「王子ー焦っちゃだめですよー」

 カイルがおどけてそう言って見せると、王子は眉を寄せて恨めしげにカイルをきっと見上げてきた。こんな子供っぽ

い顔をするのは珍しい。よほど焦っているか、悔しいのだろう。

 その様子を見てカイルは真剣な顔をして王子に答えることにした。

「えっとですね、王子。多分王子は慎重になりすぎているんじゃないかと思いますよ。一つ一つの動作が丁寧すぎる

んです。『これをつないで次はこれ』って一つずつやっていくんじゃなくて、一連の動作は全部つながっているんだと

思ってやってみてください」

 流れるような動きが自分の持ち味であると自負しているカイルだが、それを王子に教えるとなるとやはり緊張とい

うか、思わず硬くなってしまう。

「まあ、勢いでえいってやっちゃえーってことですよ、はい」

 結局最後は曖昧にしてごまかしたのはご愛嬌だ。

 王子はカイルをじっと見上げていたが、すぐに興味を失ったように練習に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 数日後。そういえばこの間以来王子にお会いしていないなあ、と人一人ともなかなかすれ違えない太陽宮の広さ

を恨めしく思っていると、ナイスタイミングでかの王子が目の前を歩いているのを発見した。

「あ、王子ー!こんに」

 

 カチャ、シャキン

 

「……ち、は?」

 即座に組みあがった連結式三節棍を喉もとに突きつけられ、カイルは呼び止めようとした片手を挙げたまま笑顔で

凍りついた。

 状況把握のために混乱状態で目まぐるしく思考を展開させていくカイルをよそに、棍を突きつけた本人は得意そう

に微笑んだ。

「出来た」

「え、え、え?」

「勢いは大事だ。ありがとう、カイル」

 お礼とともにすっと棍を引いて分解し仕舞いこみ、そのまま王子は何事もなかったかのようにすたすたと立ち去っ

てしまった。

 あとには突然のデモンストレーションに不覚ながらもまだ固まっているカイルだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒カイル出張ってる。私はカイルが好きなのか、悔しい。王子ちょっと黒い。王子のあの武器はあんなに綺麗につなげられるだなんで一種のマジックですよ。絶対はじめは失敗してたってことで。武器変えた理由はまた今度、書けるといいなあ。