お題提供:レラ・ぺラトルカ

 

 《ありがとう、ごめんなさい。いつか、さようなら》

 

 

 

 ばらばらになっていたピースがひとつになっていく。

 それを望んでいたのは確かに僕なんだけど、でもどこかでそれをいけないことだと思っている。

 

 ―――あれ、僕はひとつになることを望んでいたのかな?

 

 考える前に結論は出ようとしている。

 だって、もうすぐひとつになれるんだから。

 

 

 

 

 

 

 ふと目を覚ますと影時間になっていて、時計の針が12時ちょうどで止まっていた。

 妙な感覚があった。シャドウを感じるときの不安と似た感覚。今は寮にいるのに、タルタロスじゃないのに。おか

しいな、と思うととまらない。思考のループが始まってしまった。心配性だからいけない、と思いながらもイレギュ

ラーの可能性を捨てきれず、軽く上着を羽織って部屋の外に出た。

 部屋の外に出ると今度は人の気配が階下からした。まさか泥棒か、と身を縮ませるも寮のメンバーの誰かだろ

うと思い至るとすぐに気が抜けた。何と無しにラウンジに足を向ける。このような時間まで起きているなんて明日に

響きますよ、そう声をかけて戻ろうと思った。

 

 

 

 ラウンジのソファに誰かが身を沈めている。大きな窓から入る緑色の月明かりを浴びて逆光になっている背中

を、怖いと思ってしまったのはどうしてだろうか。

 そして月に照らされるその姿に、一瞬シャドウの面影を見てしまったのは、どうしてだろうか。

「藤草、くん」

 声をかける。息がうまくできずに声が掠れてしまった。

 藤草くんは声に反応して軽く首だけを回してこちらを見た。

「どう、したの……こんな、時間、に?」

 問いかけの声が途切れ途切れになる。何故だろう、まだ秋口なのに寒い。

「月が見たかったんだ。すっごく綺麗でしょ?」

 どこかあどけない様子で彼は答えた。そして、綺麗に微笑んだ。

「それに、この月が『彼』にはどんな風に見えているのかも知りたかった。でも一緒だね。きっと僕と彼は同じもの

を見ているんだ」

「……かれ、って?」

「君が今見ている『彼』だよ」

「藤草くん、しか、いませんよ」

「だから、僕なんだよ」

 藤草くんはゆっくり立ち上がって、窓のほうへと歩を進めた。窓際に立つと、それに映る自身の姿に手を伸ば

す。

「一緒のものを見てきたはずなのに、僕は一緒になれないんだね。もうすぐ、終わりが来ちゃうから」

 未だかつてこれほど饒舌な、これほど表情豊かな彼を見たことがあっただろうか?

 『彼』は窓越しに月を見上げた。

 

「寂しい、なあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共に育っていく事で、育まれた者。


 

 

 

 影時間はとても居心地がいい。何故かはわからないけれど、そう感じる。

 きっと彼も同じことを感じているんじゃないかな。

 

 月が見える。きれいな月が。

 満月に彼らがざわめくのは、きっと同じことを感じているからなんだろうね。

 あの月への憧れが、彼らを勇気付けるんだ。

 

 ひとつになりたいって。

 

 

 

「山岸」

 気が付くと目の前にまで藤草くんが来ていた。先程の笑顔など完全になかったかのような無表情と、落ち着い

たトーンの声。

「え、あ、藤草くん……いつの間に?」

「山岸が気が付いてなかっただけだ」

「え……ご、ごめんなさい」

 白昼夢でも見ていたのだろうかと疑った。夜なのに白昼夢というのも変な話だけど。

「僕は」

「え?」

「僕は、おかしなことを言っていたか?」

「え、あの……そんなことは」

「そうか」

 それだけ聞くと満足したのかすぐに階段のほうへと彼は向かってしまった。

「あ、あの」

「何?」

「藤草くんは、影時間の月を……綺麗だと思う?」

「……綺麗だと思う。だけど」

「……」

「綺麗過ぎる。吸い込まれそうで、怖い……そのまま溶けこんでしまいそうだ」

 

 あの月は、全てを覆い尽くし混ざり合ってしまうのではないかと思うほど、深く輝いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影時間の緑の夜空にぎらぎらと光る黄色い満月


 

 

 

「やあ、こんばんは。起きてたんだね?」

「……ファルロス」

 『あの後』になんとなく彼のところへと姿を現そうとすると、彼は眠らずにベッドの淵に座っていた。

 どうやって出て行こうかと少し考えた後に、僕は彼の後ろに背中合わせに座ってみることにした。ぎし、とベッド

が音を立てる。背中越しの会話というのも面白い。

「ファルロスは、次の満月が過ぎたらどうするつもりなんだ?」

 次の満月―――最後の試練が訪れる時。

「僕?どうなんだろう、わからないや」

 重心を傾けると彼の背中は僕をしっかりと受け止めた。見た目とは違って意外とその肩は広い。遠慮なくもたれ

かかることができる。

 僕の肩はいつまで経っても変わらないのに、彼だけが成長していった―――あれ、そうだったっけ?そんなに昔

から僕は彼のことを知っていたのかな?

「君はどうするの?」

「僕もわからない」

「君もわからないんじゃないか」

「どうなのかな」

「どうなんだろうね」

「じゃあファルロスの言う『終わり』が来たらどうする」

「終わりが来たら?」

 ああ、そうか。終わった後のことなんか考えてなかったや。

「でも、終わっちゃうんだから。どうしようもないんじゃないの?」

「ああ……そうか」

 僕の答えに彼は黙ってしまった。何かおかしなことでも言ったかな。

「でも……終わりが来たら、君とは一緒にいられなくなるのかな」

「そうなのか?」

「せっかく友達になれたのにな」

「それは寂しいな」

「そうだよね」

 カーテンの開いた窓から月の光が差し込んでいる。緑色の光が、心地よい。

 僕たちは、同じ月を見ている。

「ごめんね」

「どうして謝るんだ」

「ありがとう」

 彼は首を回してこちらを見た。

「なんとなく、言いたかったんだ」

「……そうか」

 彼は首を戻した。また背中合わせになる。

「月が、綺麗だな」

「そうだね」

 

 彼に同意しながらも、どうしてだろうか。

 月を綺麗だと思う自分に、わずかな罪悪感が生まれていたのは。

 

 彼と同じ月を見ているはずなのに、

 

 どうして。

 

 

 

「ファルロスの見ている月を見てみたい」

「見てるじゃない。今」

「お前だけ僕の見ている月を見ているのに、不公平だ」

「でも、一緒だったよ?」

「そう思っても、きっとどこか違う」

「そうかなあ」

「そうだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君と友達になれたのは、すごく奇跡的なことなのかもしれない。


不思議系を書こうとして撃沈。

とりあえずファルロスin主人公がやりたかった。

最後まとまりない。後日修正確率高い。

風花が被害者だ……ごめんよ風花。

 

2006/08/30 主人公名修正