正面から、ぴしゃり

 

 

 

「順平、ありがとう」

 不意に掛けられた言葉の不自然さ。

「ありがとう。そう言ってくれてよかった」

 振り返ったときには彼はもう背を向けていた。

 声色は平然としていて、でも少しゆっくりで、どこか自身に言い聞かせているような。

 

 何故、あんな言葉をかける。

 順平は、彼を責め立てた。

 彼のせいではないことを知っていて、それでも誰かのせいにしたくて。

 自身が呼びかけることのできる対象を求めて。

 言ってはいけないと頭の中で警告を発しても、声に出して叫びたかった。

 彼が、何をしたというのだ。

 彼が、何故背負わねばならないのだ。

 

 

 

「本音を隠して気を使われても、事実は何も変わらない」

 

「ありがとう。何も言われなければ、自分に悪いところは何もないと言い聞かせて、逃げ出したくなるところだった」

 

「ありがとう。僕の罪を忘れさせないでくれて」

 

 

 

 その言葉に、真実があった。

 真実を、彼は正視した。

 

 正面から見つめることができたのは、あの言葉のおかげ。

 

 

 

 でも、お礼の言葉が震えてしまった。

 ごめんな、順平。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少し長くしようと思ったけれど無理だったので、短文(笑

2006/10/22


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前夜祭

 

 

 

 京都の夜にもまた、そのときはやってくる。

 

 プレーヤーから流れる音楽が止まって、影時間の到来を知った。同室の順平は右隣で大きな鼾をかいているし、

その奥の綾時はこちらに背を向けて布団にうずくまっている。

 素直は動かなくなったプレーヤーを耳にかけたまま、窓の襖を開けた。黄緑色の月光が差し込む。

「あれ……明るいね」

 かかった声に振り向けば、綾時が寝ぼけ眼をこすりながら起き上がってこちらを向いている。

「もう朝?」

「違う。月光だ」

「げっこう?つきこう、じゃなくて?」

 寝ぼけた奴には付き合っていられない。

「寝なよ」

「綺麗だねー」

「寝ろ」

「いやだよ。もったいない」

 思わず肩を落とす。

「わー……空が緑色だね」

 布団から抜け出て彼は素直の隣にやってきた。

「変なの。でもすっごく綺麗だ」

「綺麗、か」

 綾時の言葉を反芻した。彼を見れば、窓の外に視線をやったまま動かない。その空に魅入られているかのように

釘付けになっている。

「とてもいい夜だね。特に、月が綺麗で」

 

 そのままずっと影時間があけるまで二人で空を見上げていた。

 

 

 

 後から思えば、影時間にもかかわらず、綾時がそこに居ることを当然のように思っていた。

 相応しいとすら、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少し長くしようと思ったけ(略

2006/10/22