扉の前

 

 

 

 城中の煌びやかな装飾の全てに見向きもしなかった喰世王が、たった一つだけ目

を留めた部屋があった。

「どうしたんだよ、相棒?」

 訪れた気まずい沈黙に耐えかねてギグが話しかけても返事はなく、ただ一つの扉

を見つめ続けている。

 それは決して豪華ではなく、むしろ簡素でしかししっかりとした扉がどっしりと構え

ていた。あまり立ち寄る人もいないのか、どこか埃くさい。

 その扉は城の上層部に、人目を避けるようにひっそりとあった。

「理不尽だよね」

 嘲笑うような含みを乗せて、喰世王は一言だけ口にした。

 それ以上は死神に問われても何も言わず、何もなかったかのように、その場で起こ

ったことの全てが無かったことになったかのように、その場を後にした。

 

 ――そこは、赤禍に侵されたメディアンの子が最期の時を過ごした部屋。

 

 喰世王が立ち去った後には、鉄錆の匂いが少しだけ残って、そしてもう、何も残ら

なかった。

 

 

 ・・・”二度”も自分を否定したこの世界の全てを、

 

 

 

かつて過ごしていた場所に今彼の人はいると言う事実。

初稿 20070629
ブログより転載

 

 


 

ホントウの知

 

 

 

 今日は、何を教えてくれるの?

 

「シェマ」

 音もなく背後に現れた気配。こっそりと姿を見せた割には、彼女に対してその気配

を隠すつもりは微塵も無いらしい。単に驚かせたかっただけだろう、この人――いや、

既に人ではないだろうが――の行動には理解できない部分が多すぎる。

「何よ」

「今日は何してるの?」

「仕事結果(盗品)の選り分けだけど・・・何、また興味あんの?」

「うん、見せて」

 そういうと、喰世王はシェマの机の横に自分で椅子を持ってきてちょこんと座った。

邪魔にならない位置に肘をつき、楽しそうに眺めている。

「これ、見た目綺麗なのに」

「装飾は凝ってるけど雑な仕事だし、何よりこれ宝石がイミテーションね」

「値はつかない?」

「ついてもその辺の出店で売ってるレベルよ」

 そう言ってシェマがその髪飾りを廃品の袋へと放り投げると、喰世王の目はそれを

辿っていく。

「欲しいなら勝手に取っていって。もともとはアンタのだしね」

「ううん、いらない。動くのに邪魔だし」

「そう」

 そうしてまた黙々と作業に戻る。喰世王もそれをまた見つめている。

「こんなの見てて楽しい訳?」

「うん」

「暇ね」

「知らなかったことを知るのは面白いよ」

 

 ――「ウワベのキレイゴト」と「そうでないもの」を知らなかった、あの頃と違って。

 

 

シェマは正に「お姉さん」のイメージ。

初稿 20070726
ブログより転載