《金色の髪》

 

 

 

「どうしてそんなに髪を伸ばしているの?」

 邪魔でしょう、との唐突なグラジオラスの言葉にレムオンはにべも無く答えた。

「お前には関係ない。別に鬱陶しくも感じんしな」

「へえ、『関係ない』ってことは……何となくという訳ではないのね」

「つまらん事に興味を持つことも無いだろう。……大体、連絡も無くいきなり顔を見せたかと思えば……」

「……それこそ、どうでもいいことよ。それに『鬱陶しくない』ってのも嘘でしょう?今日も思い切り不機嫌極まりない

顔して髪いじりながら机に向かってたじゃない」

 ソファーの向かい側で紅茶の入ったティーカップを揺らしながら意地の悪い顔を向けてくるグラジオラスからさりげ

なく目をそらし、レムオンは彼女に聞こえない程度に小さく舌打ちをした。全く、意外に頭の回るやつだから困る。

 ……少なくとも、こいつに知られてはたまらない。

 

 

 

『レムオン様の金色の髪は、夕日にとてもよく映えますわね』

 

 

 

「……とかティアナ様に言われたんでしょう」

「なっ、何故それを……!?」

「うわ、やっぱり……分かりやすっ……」

 グラジオラスは呆れた様子で苦笑していた。鎌をかけられたことに気付いたレムオンは思わず顔を赤くする。

「レムオンって正直なのね……」

「……馬鹿なことを言うな。誰がそんな……」

 呼吸を落ち着けてどうにか冷静に対応しようとするも、レムオンの声は微かに震えていた。その様子にグラジオラ

スは口を押さえて笑う。

「でもね……私もそう思うわ。貴方の金色って、父さんの畑を思い出せて……何だか暖かな気持ちになれるから……」

「……何か言ったか?」

 何かを小さく呟いたことに気がついたレムオンは彼女に尋ねたが、その時にはすでにグラジオラスは空になった

カップを置いてソファーから立ち上がっていた。

「そういうことにしておいてあげる……って言ったのよ。じゃあまた寄らせてもらうわ、レムオン『兄様』?」

「……全く……勝手に言っていろ。……また帰ってこい」

「ええ、それじゃ。行ってきます」

 グラジオラスが部屋を出て行ったのを見届けて、レムオンはソファーにへたり込んだ。

 

 どうしてあいつが相手だとあんなに気楽で……あんなに緊張するんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《隠し味》

 

 

 

 貴族たちとの会議を終えてレムオンが城の廊下を歩いていると、いつもは感じない甘く香ばしい香りを嗅ぎ取るこ

とができた。

 眉を寄せつつよく注意してみると、それはあのティアナの部屋からのものだった。

 何事だと彼女の部屋を訪ねると、ティアナは弾んだ声でレムオンを迎え入れた。

「レムオン様!ちょうどいい所にいらっしゃいましたわ」

 部屋を眺めるとそこにはお茶の用意と、それからクッキーが並べられていた。

「今からお茶の時間なのです。よろしければレムオン様もご一緒にどうですか?」

 レムオンにはティアナの誘いを断る理由はない。了承して席に着く。お茶を一口飲んで、ようやくいつもとの違いに

気が付いた。

「そういえば……茶請けがいつもとは違うのだな」

 添えられたクッキーがいつものものではない。先程感じた香りもこれのようだ。

「ええ。召し上がってみていただけますか?」

 期待に満ちた顔でティアナは見つめていた。不思議に思いながらもレムオンはそのクッキーを口にした。

「どうですか?」

「ああ、なかなかのものだな。くどくない甘さがいい」

「本当ですか!?よかった……」

 ティアナはその言葉に安堵と喜びの表情を浮かべた。

「これはどこのものなのだ?」

「ふふ。これは買ってきたものではありませんわ。ティアナが作ったのです」

「……何?」

 まじまじと改めてクッキーを眺めた。だが、これが手作りというようにはなかなか思えない。何故なら、

「しかし俺はこのクッキーを食べたことがあるぞ。以前グラジオラスが気まぐれに寄越したものだ」

「あら当然ですわ。だってこれはグラジオラス様に教えていただいたのですから」

「な……」

 以前グラジオラスがそれを持ってきたとき、彼女は特に何も言ってはいなかった。ただ、

『余ったからあげるわ』

 と、さもどうでもいいように投げ寄越したのだ。

「グラジオラスが……?」

「はい。前に少しいただいたときあまりにも美味しかったので、私が無理に言って」

「……」

「レムオン様のために作られたとのことでしたが……その時は少々甘くしすぎてしまったので、私が作るときはもう

少し甘みを抑えたほうがよいと……。丁寧に教えてくださいました」

「……」

 確かに自分はグラジオラスが持ってきたときに甘すぎるというようなことを言っていたし、今のこれは食べやすかった。

「……そうか……」

 今ここにいないグラジオラスの気持ちを感じながら、レムオンはもう一枚クッキーを口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《可能性のすべてを》

 

 

 

「……どうしたの、レムオン?」

「本当に、俺と共に……?」

「くどいよ」

「……だが、俺はおまえと同じ時間の中にはいない。いずれはお前も老いていき、そして俺は……」

「そんな醜い私は嫌?」

「違う……だがいつか来る死の時、きっと俺は今と変わらず、そしておそらくお前は……俺を置いていくのだろう

……」

「そんなことしないわ」

「人の寿命は俺と比べればとても短い……お前も人である以上は」

「ああっ!うだうだと煩いわね。そんなことはないって言ってるでしょう。私のこと信じられないの?」

「しかし……」

「人の寿命が短かろうが、私は貴方と生きていくわ。貴方よりも先には死なない……死ぬわけがない。それとも人

だと貴方の隣にいられないというのなら、何にでもなるわ。例えウルグであろうともね」

「そんな」

「できるわよ。私は無限のソウルを持つ者。貴方と共に生きていく全ての可能性のために……私の無限の魂はある

のだから」

「……そうかもしれんな」

「そうそう。ウルグだって制して見せたでしょう?だからそれくらい簡単なことよ」

「お前に……そこまで言わせてしまったのだからな。俺も……俺は、お前を愛している。絶対に離さない。俺が死ぬ

まで、いや……闇に墜ち囚われようとも、最後まで……共に歩いていこう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


これら全てお友達の相川さんに送りつけたことがあります。はた迷惑な!!(笑

完全にCPものなのは自分でも珍しく、顔を赤くしながら書いていた記憶が。

レムオンは素敵ですよ。あの馬鹿加減が(褒めてます)。ツンデレの基本だ(言っちゃったー……)。

でもやっぱり一番好きなのは前半の気が張ってるところ。孤島の姿が格好いい。